保険会社の使い方、お金で買えないもの

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保険会社の使い方、お金で買えないもの

「でも俺やっぱり事故怖くなったよ、ほら教習所で読む遺書みたいのあるじゃない?」
「ああ、日高の…ってあれは飲酒でしょ!しかも昭和!でも絶対しちゃいけないんだからねっ。」
「わかってるよ…でもさ、実際に事故を起こしちゃったら…どうしたらいいか…」

 

どうやら己の初号車が暴走して事故でも起したところを想像しているらしい。

 

ここも簡単に説明しておいたほうがいいか…

 

「あんた教習所でならったでしょ、まずは人命第一。次に警察と必要なら消防に連絡。」

 

「警察!?僕つかまるの!?」

 

「そりゃあんたが引き殺したりしたら、ね。そうじゃなくてもただ相手の車にぶつかったとしても事故証明をしてもらわなきゃだから、常識ある人は警察を呼ぶわよ。
それから、お互いに連絡先を交換。この時きちんとナンバーを控えて、相手の身分証も見せてもらうといいわね。私だったら面倒だから全部写メ撮っちゃうけど。」

 

何この子必死でメモしてる…スマホに録音機ついてるのに、アナログな…

 

「も、もちろんメモだっていいわよ?でも間違えないようにね。で、それから保険会社に連絡をする。保険会社同士話し合っていただいて、車だったり怪我だったりをお互いにきちんと調べてお金が出る…大体こんな仕組み。」

 

「そういえば姉ちゃん、この間事故にあったって…」

 

「そう、でもね私は駐車場に止めていて乗っていなかったの。そこに後ろから…ああ今思い出してもむかつくわ〜。けどね、怒っちゃだめよ。喧嘩したって何の得にもならない。もし自分が被害者なら本当にむかつくだろうけど、加害者になったときの気持ち考えてごらんなさい。ほら、あんた小さいころ腕ひかれたでしょ。そのあとおいし〜いお菓子でてこなかった?」

 

「小学生の時…痛かったけどでも折れてなかったし、あとも残らなかったから…」

 

「相手がね、本当に申し訳ないって菓子折り持って頭を下げに来たのよ。一歩間違えば…あれは死んでたわね。」

 

今思い出してもぞっとする。

 

小学生の弟が、私の前を歩いてて、私のほうを振り向いた瞬間、彼の右腕を真っ赤な車がすごいスピードでひいていったのだ。

 

物凄い音がして、一瞬何が起きたのかわからなかった。幼い私は泣きじゃくる弟を心配する半面、出てきた男に憤慨し、家が近かったことが幸いだった。

 

すぐに母を呼んで…という記憶がお互いにある。

 

その後、謝りに来た男は鬼神のような母の前では非常に小さく見えた。

 

その時のお菓子の事を彼はよく覚えているようだ。何しろほとんど彼がすべて食べたのだから。

 

「本当、注意しなさいよ。お金で買えないものなんてこの世にいくらでもあるんだから」

 

「うん、僕生きててよかった…」